神が人間に求めておられる服従の基準、それは道徳律法であり、その道徳律法は、最初、人間の心に記されていた。けれども、人間は堕落して神に背を向けたことにより、心に記された道徳律法に従う歩みから離れ、罪に罪を重ねる者となった。それでも神は、人にあわれみを注ぎ、やがてアブラハムを選び、彼に続く民をご自身の民とし、モーセの時代、民をエジプトから救い出し、この民に十戒を与え、神に従う道を明確にされたのである。道徳律法を要約するようにして、十の戒めを与え、それは更に二つに要約されている。神との関係の戒めと、人と人との関係の戒めであり、「神を愛すること」、そして「人を愛すること」であると、主イエスが語っておられる。この二つは、第五戒「あなたの父と母を敬え」によって繋がっている。ここからは人間関係における戒めであるが、その根底は、神による人間の創造であり、神と人との確かな関係があって、人と人と関係が築かれることを暗示している。
1、問63「第五戒は、どれですか。」答「第五戒はこれです。『あなたの父と母を敬え。これは、あなたの神、主が賜わる地で、あなたが長く生きるためである。』」問64「第五戒では、何が求められていますか。」答「第五戒が求めている事は、あらゆる人が目上、目下、対等といういろいろの地位と関係において持つ名誉を守り、義務を果たすことです。」第五戒も含めて、後半は、人間の日々の生活そのものに関わる事柄である。一つ一つの戒めを理解するのに、神が人間を造られたこと、その神が人間に服従を求めておられることが、全ての事柄の出発点である。アダム以降の人間は、皆、両親がいて子が生まれるという事実を根拠とし、この世に存在する。神が人に命を与えられ、人の命は人から人へと受け継がれている。その事実を決して忘れないよう、「あなたの父と母を敬え」と命じられる。人は、両親から愛され、神の愛を知り、互いに愛し合うことを学ぶ。また両親への服従を通して、神への服従を学ぶことができるのである。人が神のかたちに似せて造られたことも、子が両親のかたちを受け継いでいることを通して気づかされ、一層、神を愛する者となり、両親を敬う者となるよう導かれるのである。
2、そうした人間関係の全てを、また根本を、両親との関わりで身に着けることを、家庭の役割とされた。人を男と女とに創造し、「生めよ。ふえよ。地を満たせ。地を従えよ。・・・」(創世記1:27-28)と命じられた時、神は結婚を定め、これを祝し、親子関係を通し、愛すること、服従することを教えようとされた。「あなたの父と母を敬え」とはっきり命じて、改めて家庭の役割の大きさ、その使命の尊さを明らかにされたのである。人がありとあらゆる人間関係において、問答64が告げる、「あらゆる人が目上、目下、対等といういろいろの地位と関係において持つ名誉を守り、義務を果たすこと」によって、よりよい認識と理解を実際に身に着けるならば、それは計り知れない富となる。誰であれ、互いに相手を尊重する、その根拠は何なのか。創造の事実を抜きに、また人間の尊厳の源を無視したままで、互いに人を尊ぶことは難しい。結婚の尊さの根元を抜きにして、親子関係の尊さを認めることも難しい。家庭において、よい人間関係の根本を学べないまま、どれだけ損失を被っているのか、私たちは、今日の社会問題の大きさを度々知らされている。
3、小教理問答は、「あらゆる人が目上、目下、対等といういろいろの地位と関係において持つ名誉を守り、義務を果たすこと」と言う。果たして「目上、目下、対等」という地位は、何を指すのであろうか。別訳は次の通りである。「第五戒は、目上の人、目下の人、あるいは対等な人として、さまざまな立場と関係にある、あらゆる人の名誉を守り、その人に対する義務を果たすことを求めています。」目上であろうと、目下であろうと、対等であろうと、あらゆる人を、その立場と関係において名誉を守り、こちらの義務をしっかり果たすこと、その責任が問われている。神と人間の関係があり、親と子の関係があるために、自ずと、上か下かの関係が思い浮かぶ。けれども、ただ上下関係を考えないようにすべきである。また聖書は、「人はみな、上に立つ権威に従うべきです。神によらない権威はなく、存在している権威はすべて、神によっているのです」と告げる。確かに社会には秩序があり、立てられた権威が存在する。けれども、神を畏れ、神に従うので、神がその人に与えられた権威を認めること、それが肝心である。神が結婚を備え、夫婦が家庭を築き、これを治めるようにされた時、そこに親としての権威と務めを付与しておられた。それ故に、全ての人に「あなたの父と母を敬え」と、大切な戒めを与えられた。その戒めの本質は、あらゆる権威を正当に認め、神を仰いでその権威に従うことを求めているのである。(ローマ13:1-2)
<結び> この第五戒に基づいて、新約聖書では、次のように言われている、「子どもたちよ。主にあって両親に従いなさい。これは正しいことだからです。『あなたの父と母を敬え。』これが第一の戒めであり、約束を伴ったものです。すなわち、『そうしたら、あなたはしあわせになり、地上で長生きする』という約束です。」そして親には、次のように勧める。「父たちよ。あなたがたも、子どもをおこらせてはいけません。かえって、主の教育と訓戒によって育てなさい。」更には、奴隷たちにも、主人たちにも、教えが語られている。誰であれ、どんな立場であっても、私たちは神の教えに従って、人と人との関係を整えられ、互いに尊敬と信頼を育み、神に従うように相手を認め、その人に仕え、その人を愛することを、心の底から果たすことが求められている。そこには先ず、夫と妻の関係の勧めも記されている。(エペソ5:22-6:9)
世の中の秩序が乱れるのは、人がそれぞれ自分の立場を振りかざし、自分の利益を貪ることによる。歴史の教訓は、富を貪り、力を誇り、他を追い落とすことによる争いを、余りにも明白に示している。その根本原因は何か。神を恐れず、自分の知恵と力に頼る、人間の愚かさであろう。私たちは、今一度、天地を造られた創造主である神を信じ、神の命令の一つ一つに、しっかり心を留めたい。その一つ、十戒の第五戒、「あなたの父と母を敬え。あなたの神、主が与えようとしておられる地で、あなたの齢が長くなるためである」との言葉を、心に刻みたい。そして、私たちのこの地上での日々が、神の前にはもちろんのこと、世の人々の前にも、確かな証しとなることを祈りたい。
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